面接官と口論、イラついて傘を忘れて帰る

面接室に入ってからしばらくすると、人事部の人がやや年配の社員を連れてきました。どうやら担当部署の責任者であり、その人が面接官のようです。

それゆえ、面接形式は2対1で、人事部の人と担当部署の責任者、そして私の3人で行われます。面接開始からの数分は社交辞令から始まり、基本的な質問をいくつか受けました。

「なぜ転職したいのか?」「現在の仕事内容は何をしているのか?」「なぜこの求人に応募しようと思ったのか?」

ここまでは前回の面接とまったく同じです。

すべて想定内の質問でしたので、特に動揺することなく自然に回答することができました。面接の出だしとしてはまずまずです、悪くはありません。

基本的な質問が終わると、次は応募職種の仕事内容や待遇の話になりました。

この話題に切り替わった瞬間、この求人票を見たときからモヤモヤしていたことが頭に浮かびました。それは、この会社には退職金制度がないのです。今のご時世、退職金制度がないことは珍しいことではないとは思いますが、労働者の立場からすれば退職金制度は重要です。特に、長く勤めようと思っていれば尚更です。それゆえ、求人票で唯一、退職金制度だけが気になっていたのです。

面接官からの仕事内容の話はスラスラと終わり、最後に次のような質問を受けました。

「仕事内容や福利厚生に関して何か質問はありませんか?」

絶好のチャンスだと思いました。唐突にこちらから福利厚生のことを聞き出すのも不自然だと思いましたので、いつ聞き出そうかと悩んでいた矢先です。あくまでも自然な流れで質問できるチャンスがやってきました。

聞くべきか聞かざるべきかを瞬時に悩んだ結果、私は退職金制度に関して質問することにしました。やはり、モヤモヤを解決しないまま面接を終わらせたくなかったからです。

「それでは、1つご質問させていただきたいのですが(以下略)」

その場で考えられ得る最大限に謙虚な言葉を選びつつ、丁寧に質問をしました。面接官から答えは意外にスラッと返ってきました。

「退職金制度がないのは、私どもの会社自体にフットワークがあるからなのです」

……?…………?フットワークってなんだ?

その答えを聞いたときは困惑しました。何を言っているのか理解するのに少し時間がかかったほどです。会社にフットワークがあると言えば聞こえが良いですが、社員の退職金制度を削ってフットワークが良いなんてのは意味がわかりません。それは単に社員への福利厚生を削っているだけだと思うのです。そんなに給料も良いわけではありませんし。

もしかして、給料が上がっていい歳になったら簡単に切られるんじゃないか?といった不安が頭に浮かびつつも、とりあえずマイナス印象になるような態度や言動は避けようと心がけました。

変に深く追求することはせず、やんわりと質問を終えました。これ以上、つっこんだ質問をしてしまうと何やら嫌な予感がすると思ったのです。

なぜか異業種を志望していたことに食らいつく面接官

場の雰囲気が急変したのは、面接官の次の質問でした。

「〇〇さんは弊社以外にこれまで、どのような求人に応募されていたのですか?」

質問自体は特に変わったものではなくありきたりな質問です。しかし、どうやら私の回答がマズかったみたいです。

さすがに「今日の午後から別の面接があるんです」などとは言っていません、さすがにそこまで空気が読めないわけではありません。

「以前、〇〇に応募したことがあります」と、まるで過去のことかのようにやんわりと回答しました。すると間髪を入れずに面接官が「それも今回と同じ〇〇系の職種で受けられたのですか?」と聞いてきました。

この質問に対して、私は安直に答えてしまったようです。実はもう1社の面接は、今の私の職種とはまったく異業種になるのです。ただ、私は異業種に転職すること自体は特に珍しいことではないと思っていますので、なんら気にせず異業種の職種であることを伝えました。

問題はその後です。異業種であることを伝えた途端、面接官の顔が明らかに曇りだします。

「えっ、現職は〇〇職なのに、なぜそのような仕事を志望…いや、それって少しおかしくないですか?」

と明らかにネガティブな回答を面接官がぶつけてきました。

「おかしくないですか?というのはあくまでもあなた個人の価値観であって、そんなことを言われる筋合いはありません」

とすぐさま頭に浮かびましたが、さすがに口にすることはできません。異業種の職種を受けてみたいと思った経緯、そちらの方向にも可能性を見出したかった経緯をやんわりと伝えました。

しかし、面接官は「いや~…おかしいなぁ~」とブツブツとものすごく悩んでいる様子です。私はそんなに変なことを言ったつもりはないのですが、面接官にとってはトリガーだったみたいです。さらには次のようなことを言われました。

「いや、あなたが〇〇系の職種のみを受けてこられたのなら信頼して仕事を任せられたのだけれども、こうコロコロと違う職種を受けているのを聞くとちょっとね…」

えっ…?なにコイツ?その言葉を聞いた瞬間、頭が沸騰するような苛立ちを感じました。異業種の求人に応募するのがそんなに気に食わないのでしょうか?しかもコロコロって1回でしょうに。私自身、その回答を聞いてからは冷静さを保つのに必死です。とにかく、このオッサンは何かヤバイ、そう思いました。

何とか場を取り繕おうと、異業種を受けた理由や経緯を再度細かく伝えました。例えば、異業種とは言えまったく接点がないわけではなく、保有している資格や経験などから繋がりがあることを懸命に伝えました。

しかし面接官の反応は「まったく理解できない」の一点張りでした。どうやらこの面接官には異業種を受けたこと自体が致命的にダメみたいです。よくわかりませんがとにかくダメみたいです。

終わってみれば散々な面接

最初のつかみこそ良かった面接でしたが、終わってみれば散々たる結果です。

面接が終わったときの雰囲気で、これは落ちたなと思いました。それほど、終盤の雰囲気はギクシャクとしていました。とは言え、私自身の苛立ちもおさまりません。

「私が面接官だったら、あなたのような視野の狭い人間を採用することはありません」

心の底からそう思いました。表面的な感情は出さずとも、内心の怒りは頂点に達していました。年配の人間だからでしょうか?価値観がまったく違うなと思いました。そんな人間を転職の面接によこすなんて会社の程度が知れます。

結局、面接後は社交辞令と挨拶だけを交わし、さて帰ろうかと思った矢先、人事部の人に呼び止められました。何やら、この後の筆記試験を受けてほしいとのことです。

何それ?まったく聞いていないんだけど。こちとら午後からもう1つの面接を控えている身だというのに、いらぬサプライズをしてくれたものです。サプライズの筆記試験なんて断って選考を辞退しようかと思いましたが、エージェントに悪い印象を与えては得はないと考えましたのでとりあえず受けることにしました。

時間にして約1時間、当初の予定よりもオーバーしました。筆記試験を終えた後は人事部の人から社交辞令と挨拶があり、ようやく解放されました。解放された後はスタスタと一目散に出口へと向かいました。外に出ると雨はやんでいましたので、そのまま駅へと歩いて行きました。

面接では食って掛かってきて、予定外の筆記試験を受けさせる。こちらの意向や予定なんてまったく無視したヒドイ会社です。イライラが止まりません。

そんな状態でしたので、会社に傘を忘れてきてしまったと気づいたのは電車に乗ってからでした。お気に入りの傘でしたが、次の面接までもあまり時間がありませんので諦めることにしました。

もう、踏んだり蹴ったりです。

頭は依然として混乱しています。実は面接官はわざとあのような態度を取り、その間の対応を見ている圧迫面接の一種だったのかな?とも思ってきました。さすがに、そうでなければ面接官としての資質がなさすぎます。

とりあえず結果が来ないことにはなんとも言えませんが、とりあえず気持ちを切り替えつつ午後からの面接会場に向かいます。

午後からの面接は、トラブルの元になった異業種への面接です。前回といい、何かと面接がうまくいきません。

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